【関電トンネルトロリーバス黒部ダム駅】日本で唯一トロリーバスの出発を見ることができた黒部ダム最寄駅

この記事は約8分で読めます。


ここは県境山深い地下にある、関西地方の電力を支えるダムの最寄り駅。線路なき鉄道に向かって、鉄道員は今日も出発指令を送り続ける。


関電トンネルトロリーバス黒部ダム駅、関電トンネルトロリーバスは正式名称「関電トンネル無軌条電車」といい、バスでありながら法律上鉄道と同じ扱いです。黒部ダム駅は鉄道駅として黒部ダムの最寄り駅としての役割を与えられており、そして日本でトロリーバスの発車シーンが唯一見られる駅でした。


そして関電トンネルトロリーバスは、2019年4月にトロリーバスから電気バスに置き換えられ、法律上鉄道廃止の扱いとなります。なお12月からは関電トンネルを含めたアルペンルートが冬季閉鎖されるため、実質乗車できるのは2018年11月末が最後でした

スポンサーリンク
スポンサーリンク

トロリーバスという鉄道


長野県信濃大町から富山県立山をつなぐ「立山黒部アルペンルート」は、黒部渓谷や飛騨山脈、そして立山連峰を直線的に横断する交通ルートです。排気ガスから自然を守るため、自家用車は一切入ることができません。そのため立山黒部アルペンルートの移動手段は、関西電力および立山黒部貫光が運航する交通機関のみとなります。


そんな立山黒部アルペンルートの中には、「トロリーバス」を使った交通機関があります。トロリーバスは架線から受け取って電気で動くバスのことで、実質線路がない電車となります。そのため法律上無軌条電車とも呼ばれる鉄道の扱いとなるのです。トロリーバスは1960年代まで東京を含めた市街地でも見ることができましたが、2018年まで日本には立山黒部アルペンルートにある関電トンネルトロリーバスと立山トンネルトロリーバスの2つしかありませんでした

関西の電力源は秘境黒部から


黒部渓谷にそびえる黒部ダム。戦後の発展による電力不足に悩まされた関西電力が、社運をかけて建設された日本最大級のアーチ式のコンクリートダムです。黒部ダムは安定的な電力供給という本来の目的を果たしているだけではなく、その壮大な景観による観光地化にも成功しています。


こちらは黒部ダムの観光放水の様子です。本来黒部ダムにためられた水は、全て下流の黒部川第四発電所に送水されて発電されます。しかし景色を楽しむために訪問した観光客のために、ダム下の岩が削れない程度の水を霧状にして放水する壮大なサービスです。


そんな黒部ダムによってためられた水によってできたダム湖、黒部湖。ダムという人工物によって生み出されたその光景は、自然では成し得ない風光明媚な風景を生み出しています。黒部湖ではその豊富な水を利用して航行する遊覧船、「ガルベ」による観光もおすすめです。

黒部ダムの駅舎は飛騨山脈?


さて黒部ダムの景色を堪能したところで・・・こちらは黒部ダムおよび黒部ダム周辺の施設案内の地図となります。黒部ダムは天端の上が歩道となっており、「立山黒部アルペンルート」の徒歩ルートとして含まれています。黒部ダムの歩道は関電トンネルの黒部ダム駅と、黒部ケーブルカーの黒部湖駅の間の徒歩連絡も果たします。


その案内図の中でも目を引くのがこちら・・・黒部ダム駅の案内図です。山の中にトロリーバスの発着場があるということは、この案内図で把握することはできます。でもトロリーバスを含めて懸命に描写していることは十分に伝わってきますが、本当にこんな構造なのでしょうか・・・。行ってみるしかありません。


まず黒部ダムの天端を歩いていると、「扇沢・信濃大町方面 トロリーバス黒部ダム駅」という看板がかなりの数掲げられています。バスの上にパンタグラフが生えたマークも、ここでしか見られないものでしょう。そして目の前にそびえるのは飛騨山脈の一角、鳴沢岳です。この山の中に、トロリーバスの黒部ダム駅がある・・・みたいです。駅へのルートは、このままダムの天端の道を進むだけです。


ダムの天端を歩き終えると、黒部ダムレストハウスが現れます。レストハウスには売店やレストランの他、黒部ダムやトロリーバスのルートでもある関電トンネルの映像資料を見ることができます。


そんなレストハウスの隣に・・・黒部ダム駅の入口が大きな口を開けて待っていました。一見すると鉄道駅どころか、単なるトンネルにしか見えません。駅舎は・・・やっぱり鳴沢岳そのものということにしておきましょう。

鉄道駅は凍てつく山のなかに・・・


トンネル入り口から黒部ダム駅まで歩いて5分ほどになります。とはいうものの、この5分が少しハードなのです。


実はトンネルの中の気温は、外の季節に関係なく常に10度以下となります。今は観光客のために整備されているのでまだいいですが、トンネル建設当時はかなり堪えたことでしょう。


そんな凍てつく空間の中を、500m程歩くことになります。そしてトンネルの入り口が唯一の光である以上、歩けば歩くほど遠くなっていきます。無論気温も心なしか低くなっていく・・・。


トンネル入口から5分歩いたところで、黒部ダム駅の入口につきます。黒部ダム駅は左方向の階段を上った先にあります。ちなみに直進するとそのまま駅のホームに入ってしまうルートらしく、時折関西電力の関係車両が行き来していました。無論一般人の立ち入りはできません。


ようやく階段を上った先、黒部ダム駅にたどり着きます。切符売り場、そして改札口が奥にあります。これら黒部ダム駅の施設は、トンネルの途中に作られたような構造となっています。


そして改札口手前の左方向に延びる通路を進むと、トロリーバスから降車した乗客の通路になります。ちなみにこの通路は日電歩道こと内蔵助山へ向かう登山道にもなっています。そしてトロリーバスを眺める程度なら許されるかもしれませんが、改札口をショートカットして乗車することは無論OUTです。

運命の分かれ道・・・気温10度以下 or 220段の階段


ところで先ほどまで黒部ダムから黒部ダム駅へ向かうルートを紹介しましたが、ここで一旦松本、信濃大町、そして扇沢駅を経由して黒部ダム駅に降りた時の風景を紹介します。写真は関電トンネルトロリーバスのもう1つの駅、扇沢駅の駅舎です。


扇沢駅も黒部ダム駅と同様トロリーバスの発着場のため、鉄道駅の扱いとなっています。ちなみに扇沢駅は発車と到着のホームが分かれているうえ、発車ホームは完全に締め切られるため、発車シーンを見ることはできません。詳細は扇沢駅のページをご覧ください。

【関電トンネルトロリーバス扇沢駅】日本で最後のトロリーバス地上駅
ここは標高約1400mの山々の間に突然現れる鉄道駅、ダムから生み出される電気を武器に、トロリーバスという鉄道はトンネルの向こうにあるダムへと今日も突き進む・・・。関電トンネルトロリーバス扇沢駅。関電トンネルトロリーバスは正式名称「関電トンネ...


飛騨山脈を貫く扇沢と黒部ダムを結ぶ関電トンネルトロリーバスは、14分ほどの旅となります。途中長野県と富山県の県境も通ります。


黒部ダム駅を降りると、先ほどの降車した通路を通ることになります。ここで黒部ダムへ向かうルートを選択することになるのです。

選択:左・・・気温10度以下のトンネル


まず左を選んだ場合、先ほど紹介したトンネルへ向かう際に60段下る階段と5分間のトンネルの平坦道を歩くルートとなります。そして5分間のトンネルは、気温10度以下・・・。5分間の凍てつく空間を歩きましょう。


しかし5分間歩いた先の出口は、黒部ダムの記念碑というなかなかの景色を味わえます。黒部ダムの天端へ直行できるこのルート、階段の上り下りが苦手な人や、展望台をパスしたい人はこちらを選びましょう。

選択:右・・・220段の階段というさんぽみち


一方右を選んだ場合、目の前にはいきなりの階段・・・「ダムダムくんのさんぽみち」と呼ばれています。そんな散歩道の階段は220段、つまり13階相当のビルを上ることになります。健脚で7分位はかかるそうです。


そんな見るだけでも過酷な「さんぽみち」と称する階段を上ると、広大な展望台にたどり着きます。


冒頭紹介したダムの全景も、この展望台で一望することができます。ちなみに階段を下ると黒部ダムの天端に向かうことができますので、展望台を含めて黒部ダムの施設を満遍なく巡りたい方はこちらを選びましょう。

30分毎のトロリーバス発車指令


少し脱線しましたが、今回のメインである黒部ダム駅のホームに入ってみます。線路がないのに架線というような見慣れぬ風景・・・。


黒部ダム駅の駅名標です。青色の線が地面に向かって弧を描いて落ちている、黒部ダムの放水をイメージさせるデザインが書かれています。


トロリーバスが到着してきました。駅員こと鉄道員が総出でお出迎えします。


トロリーバスがやってくると、こんな少々窮屈な状態になります。トロリーバスは30分間隔での運転でしたので、トロリーバスがいるときが約18分間、いない時が約12分間位でした。


出発時刻になると、再び駅員が現れます。駅員は出発指示を出しながら1台ずつトロリーバスをトンネルへ送り込みます。


ちなみに出発指示を出す時がこのような感じです。駅員は手を高く上げると、運転手は汽笛を鳴らして扇沢へと出発していきます。


わかりずらい・・・という方へ、動画をお持ちしました。このような風景も、ここ黒部ダム駅だけしか見られません。扇沢駅及び立山トロリーバスは、出発ホームが締め切られてしまうからです。

訪問後記、そして隠されたもう1つのルート・・・


2019年4月、54年にも及ぶトロリーバスの運行は終わりを告げ、電気バスとして再出発しました。鉄道としては廃止となりますが、安全運航のための独自ルールとして鉄道による施設や運営方式はある程度残っています。しかし電気バスとしての運航は、鉄道駅ではなくなった黒部ダム駅を激変させる風景を見せてくれるかもしれません。それは2024年の新線開通です。


いままで黒部ダムを訪れるためのルートは、「立山黒部アルペンルート・関電トンネル」のルートが唯一でした。ところがこの地図を見てみると、全く別のルートが黒部ダム駅から黒部渓谷方面へ伸びています・・・。これは「黒部ルート」と呼ばれており、富山渓谷鉄道の宇奈月温泉~欅平を始点として第4黒部発電所を経由して黒部ダムに至るルートです。この黒部ルートは関西電力の関係者だけが使用することができるルートであり、一般の人の立ち入りは「黒部ルート見学会」への申し込みによる抽選制となっています。


この黒部ルート見学会は平日のみという形でしたが、2020年度から土日にまで参加者を拡大し、そして2024年から旅行会社を通じた一般向けツアーという形で解放される予定となっています。そんな私は参加したことがあるかといえば、第4黒部発電所の資料写真を載せていることからお察しください。しかし史上最大にツキがない私も助かります。


そして最後のトロリーバスを見送りたい方への注意事項です!

お客様にお願い
最終のトロリーバスは黒部ダム駅発17時35分です。
5分前までに黒部ダム駅へお戻りください。
黒部ダム駅駅長

「トロリーバス」、そして「駅長」、いずれも黒部ダム駅が鉄道駅だからこそある風景です。