【台鉄普快車】至上最低種別、台湾の非冷房車両

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台鉄普快車台東行前方走行中

ここはとある常夏の国にある秘境地帯。目覚ましい発展を遂げている都市の裏側で、生き残った古い列車が走っていた。半世紀前に生まれたもエアコンなき青い客車は、乗客たちに多くの風を入れるがごとく走り続けた・・・

台鉄普快車機関車枋寮駅停車中

台湾全土の鉄道を運営している台湾鉄路管理局、通称台鉄。台鉄にも停車駅が少ない特急や急行に当たる列車種別がありますが、全駅に停車するいわゆる普通列車の種別が、「区間車」・「普快車」と2種類が存在していました。その「普快車」は全種別の中で一番下のクラスであり、冷房さえも備え付けられていない客車で1日1往復のみ運行されていました。

台鉄台東駅普快車と太魯閣号

なお普快車は、台湾環状線こと幹線の全線電化によって2020年12月22日で運行終了することになりました。世代交代の波が、ここ台湾の鉄道にも訪れようとしているのです。

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台湾全土を駆け巡る様々な種別

台鉄枋寮駅駅舎内車庫写真

台湾全土の鉄道を運営している台湾鉄路管理局、通称台鉄。多種多様な車両や風光明媚な車窓の相まって、台湾国内に限らず日本を含めた国外のファンも少なくありません。

台鉄台東駅出発案内種別一覧

そんな台鉄にも特急や急行などの列車種別が存在します。この表示板には、太魯閣莒光普悠瑪自強区間というような種別が案内されています。一つ一つ紹介してみます。

区間車(區間車)・区間快車(區間快車)

台鉄新烏日駅普快車EMU800型電車

区間車」は日本で言うと、普通または各駅停車に当たる種別であり全駅に停車する運用です。使用車両は写真のような通勤列車がほとんどですが、場所によっては客車が使われることもあるなど一定ではありません。ちなみに「区間快車」は快速に当たる種別で通過する駅が少し存在するものの、どちらも料金は座席指定なしで15台湾ドルから乗ることができます。

莒光号(莒光號)・復興号(復興號)

台鉄台東駅莒光号機関車と客車

莒光号」は急行に当たる種別、写真のような機関車を使って客車を引っ張る方式の運用となっています。区間車より停車駅は少なく、料金も指定席込みで18台湾ドルからと少々割高になっています。一方の「復興号」は準急とに当たる種別で同じく客車運用で、莒光号の補完的な運用をします。料金は区間車と同じ15台湾ドルから乗れますが、全席指定という違いがあります。

自強号(自強號)

台鉄DR3000型区間車運用

自強号」とは、日本では特急に当たる種別です。写真のように単独で自走できる電車又は気動車が使われ、莒光号のような客車が使われることはまずありません。莒光号よりも更に停車駅は少なく、料金も指定席込みで23台湾ドルからと割高になっています。

タロコ号(太魯閣號)・プユマ号(普悠瑪號)

台鉄太魯閣号通過

正確には「太魯閣自強号」及び「普悠瑪自強号」とも呼ばれ、先ほどの自強号よりも上のクラスとされています。主に高鐵(新幹線)が並走していない東部幹線で運用されていますが、写真のような高性能の振り子式列車同じ区間を走行する自強号より更に高速で運行します。料金は自強号と同じ23台湾ドルからですが、指定席券なしで立席乗車が許されないという特別ルールもあります。

台鉄DR3000型車内

ここまで紹介した各種別で使われる車両は、全て冷房が完備されています。熱帯地方に位置する台湾において、冷房は無くてはならない存在でした。そのため冷房が搭載されていない古い車両は、次々に更新もしくは廃車される運命を辿っていきます。

台鉄普快車全クロスシート車内

しかし姿を消したはずの冷房がない車両が、台湾南部のある区間で1日1往復だけ普通列車として定期運行されていました。そんな生きた動態保存ならぬ、動く博物館級の列車種別「普快車」を今回紹介いたします。

3671次普快車、生き残った底辺

台鉄枋寮駅駅舎

「普快車」を求めてやってきたのは、台湾南部にあるこちらの枋寮駅(ファンリャオ, Fangliao)と呼ばれる駅です。突然こんなところを紹介されてびっくりかもしれませんが、この駅の詳しい訪問方法は後で紹介させていただきます。

台鉄南廻線路線図

たった1往復の普快車が運行されているのは、この台鉄南廻線と呼ばれる路線です。枋寮~台東 (Fangliao~Taitung)を結び、100km弱程の距離で人口が少ない沿岸及び山間部を走ります。

台鉄普快車案内表示

その南廻線の台東方面へ向かう列車を見てみます。10時34分発の371次「自強」、そして今回紹介する10時40分発の3671次「普快」という見慣れない種別表示が出ています。

台鉄普快車機関車枋寮駅停車中

こちらが冷房無し普通列車、枋寮駅始発、3671次普快車台東行きです。「藍皮車」と呼ばれる青色の客車を、ディーゼル機関車で引っ張る運行です。運賃は10台湾ドルから、終点台東まで104台湾ドルであり、これは冷房付き普通列車「区間車」の2/3の値段でした。

最低は素晴らしい、今日は1両増結サービス

台鉄普快車機関車枋寮駅客車最後尾

普快車の始発駅となる枋寮駅は3つのホームがありますが、列車数の少なさから考えても1番ホームと2番ホームだけで十分といえました。しかし普快車は長い客車の留置および停車時間を要するために、もう1つの退避可能な3番ホームから発車していました。この異様に真新しい3番ホームは、この普快車のためだけに作られたようでした。

台湾南廻線普快車台東行きサボ

客車には、これまた珍しい台東行きの行き先表示ならぬサボが掲げられていました。下には台鉄のマークと車両番号が書かれていました。ちなみにTPKというのは、三等客車を意味する車型です。

台鉄普快車車内大混雑

枋寮駅から乗ったときの普快車の車内は、このような風景です。冷房がない車両なのに、普通の水曜日のはずなのに、車内はなぜか大混雑していました。台湾国内においても普快車人気は断トツ、地元客は皆無に等しく、乗車体験のツアー客がほとんどという実情でした。

台鉄普快車客車4両編成

通常普快車は3両編成で運行するのがセオリーでした。しかし先ほどのツアー客が多く乗車するという情報を受けてか、訪問した日は何と更に1両増結した4両編成の運行でした。最低な幸せ者です、普快車・・・

2時間半にも及ぶ強制換気の旅路

台鉄南廻線枋寮駅出発直後後方展望

枋寮駅を発車した直後の風景です。ご覧のように客車の後ろから風景を楽しむことが可能でした。発車直後は港町でもある枋寮の街並みを少しだけ楽しめました。

台鉄南廻線沿線後方展望

しかし枋寮を少し離れるだけで、人気のいない沿岸部や山沿いを走る風景に変わります。南廻線は人気がいないルートを直線的に通るため、沿岸部および山岳の他に、トンネルが全区間の1/3を占めていました。さらに当時は台湾環状線の中で唯一の非電化区間の路線であり、電車の乗り入れができない区間でした。

台鉄南廻線普快車の車窓

普快車の車窓から見る南廻線の風景です。台湾の海や山を縫うように走る風景を見ることができます。人がいないルートとは言えど、時折何かの産業拠点と思わしき構造物が点在しているところも走ります。

台鉄普快車台東行前方走行中

このように窓から顔を出して風を楽しむなり写真撮影に講じるなり・・・冷房があるために窓を開けると注意されたり、窓を開けること自体不可能な車両ばかりになった昨今、冷房自体がない普快車ではむしろ推奨される行為のようにも見られました。

台鉄台東駅普快車と太魯閣号

13時1分、3671次普快車は終点台東駅 (タイトウ、Taitung)に到着します。冷房がない自然の風だけを頼りに走る、2時間半の旅がここで終わります。なお南廻線の詳しいお話は、別の機会にお伝えいたします。

終着駅で放置、観察という名目で・・・

台鉄普快車客車4両編成

無事台東駅に到着した普快車は、折り返し3672次普快車として16時15分に出発するまで留置されます。留置されている普快車は、完全にドアがあけ放された状態で完全放置です、当然のごとく車内への自由な出入りが可能でした。黙って見ている・・・そんなわけありません。

台鉄普快車外観セミクロスシート

まず運行されていた車両は、大きく分けて2つありました。まずはこちらの車両、自動扉がありました。一見すると通勤列車のようにも見えます。この車両は1960年あたりで作られた、インド製の客車です。

台鉄普快車車内セミクロスシート

先ほどツアー客で大変混んでいたこの車両・・・誰もいない車内はこのような感じです。車両中心部がお見合い席、扉近くにロングシートとつり革を備えた、いわゆるセミクロスシートです。天井に吊るされている扇風機が、またいい味を出しています。

台鉄普快車車掌弁セミクロスシート

各扉には、ご覧のような車掌弁こと車掌が扉を操作する機械が備え付けられていました。ただ、文字が掠れていてどっちが開閉するのかがわかりません。鍵を入れる穴も、元の形から相当変形しているようにも見えます・・・

台鉄普快車外観クロスシート

そしてもう1つの車両がこちらになります。元祖客車のような風体で、両端の連結部分に扉があります。これは1950年~1960年あたりに作られた、日本製の客車です。そして先ほどのセミクロスシートの車両とは異なり扉が自動ではないため、扉が開いたまま走行することも可能です。投げ出されないように注意しましょう・・・

台鉄普快車全クロスシート車内

車内はこのような雰囲気です。全ての席が進行方向を回転できるクロスシートでした。セミクロスシートの車内のようなつり革や手すりがなく、天井も扇風機と蛍光灯だけと、かなりシンプルです。

訪問後記、南廻線の電化で台鉄は次の舞台へ・・・

台鉄普快車機関車枋寮駅客車最後尾

熱帯の台湾で冷房がない車両が、2020年末まで生き残っていたという奇跡。最大の疑問が観光列車ではなく、なぜ運賃が一番安い定期列車「普快車」として運行していたのか・・・

台鉄台東駅莒光号回送中

この写真は終点の台東駅で入れ替えを行っている莒光号です。普快車同様、走行中も開閉ができてしまう自動ドア未改造の客車が使われていました。南廻線は悲願であった鉄道による台湾一周路線の中で最後に建設された比較的新しい路線でもありますが、同時に古い車両や設備が最後まで残ってしまう区間でもありました。

台鉄南廻線沿線後方展望

台湾を鉄道で一周することを最大の目的として建設された南廻線は、高雄と台東を結ぶための都市間輸送路線としての役割が大きい事情があります。その一方で人口希薄地帯を通るルートのために、地元住民の利用は開業当初から期待できないものでした。

台鉄康楽駅ホームと普快車

写真は終点台東駅1つ手前の康楽駅の景色ですが、利用客がいないホームで駅員が1人だけ立っている状態でした。更に開業からわずか数年で廃止、又は信号所になってしまった駅も少なくありません。

台鉄南廻線大武駅ホームと普快車

地元利用客が望めない南廻線の運用は、新左営~台東間の自強号・莒光号がほとんどで、普快車および区間車はそれぞれ1日1往復だけでした。ちなみに早朝だけ運行されるもう1往復の区間車も客車運用であり、この列車も沿線で勤務する鉄道関係者のための列車でもありました。

台鉄普快車車内大混雑

つまり南廻線で2つの普通列車があった理由は、区間車は早朝に出退勤する鉄道関係者のため、普快車は日中の旅行客のための使い分けが自然と確立していたからです。さらに日中に地元利用客が少なく、なおかつ当時は電化されていなかった南廻線は、冷房がない古い客車を観光目的で使う普快車の運行に、好都合な条件がそろっていました。こう聞くと「普快車」はもはや実質「観光列車」状態でしたが、運賃が安く予約不要でいつでも乗れるという乗客及び運行側双方に扱いが良いという状態が保たれました。

台鉄普快車台東行前方走行中

とはいえ観光客には非日常を楽しめるものもありますが、僅かながらも存在する地元の利用客は、冷房がない客車の動態保存に強制的に参加させられていたようなもの・・・その心中察します。訪問した日は極力晴れの日で自然の風が心地よかったものの、雨の日は・・・

台鉄台東駅普快車と太魯閣号

そして南廻線の電化が完了した2020年12月22日、普快車は運行終了になりました。南廻線の電化は南廻線自体の利便性向上だけではなく、南廻線を含めた台湾を一周する幹線は、全区間で電車での運行が可能になったことを意味します。これからはタロコ号やプユマ号を含めた電車が、ディーゼル機関車に変わって活躍することになったのです。半世紀もの節目で大きく様変わりしようとする鉄道風景・・・まもなく訪れる大きな変化の直前のひと時を味わうことができました。

普快車に乗る方法、今後は復活を待て!

台鉄普快車機関車枋寮駅停車中

運行終了されてしまったものの、最後に南廻線で1日1往復運行していた普快車に乗るための方法をお教えします。台北から向かう際において2つの方法がありますが、一長一短である故に各個人の事情に合わせた方を選ぶことをお勧めします。

3672次台東発の場合 (訪問は簡単だが、夕方の景色になる)

台鉄台東駅駅舎

普快車に乗車するもっとも簡単な方法が、東部幹線を経由して台東駅から16時15分発の3672次枋寮行きに乗ることでした。

台鉄太魯閣号通過

台北から台東への行き方は、台東行きのタロコ号およびプユマ号1本に乗車するだけでたどり着くことができます。台東には16時に間に合えばよい為、台北以外の都市に宿泊する必要もありません

台鉄台東駅普快車と太魯閣号

台東駅に到着した後は、16時15分発の3672号普快車枋寮行きに乗車するだけです。ご覧のように隣り合った状態で乗り継ぐことができます。但しお察しの通り夕方の乗車になるため、太陽の下による風景は期待できないものになります。

3671次枋寮発の場合 (昼間の景色が見られるが、訪問が面倒)

台鉄高雄駅旧駅舎

もう1つの方法が、今回紹介した西部幹線こと高雄・枋寮方面から乗車する方法です。この場合午前中に発車する普快車に乗車するために、まず左営および高雄で一泊する必要があります。左営および高雄は、台北からでは高鐵もしくは自強号で向かうことができます。

台鉄DR3000型区間車運用

宿泊した翌日は、左営・高雄から潮州・枋寮台東行きに乗る必要がありますが、実は自強号および莒光号を含めてほとんどの列車が潮州止まりでした、そのためほとんどのケースで潮州駅から枋寮・台東行きの列車に乗り継ぐ必要がありました。

台鉄DR3000型使用区間車枋寮行き案内

しかも潮州駅から列車数自体がかなり少なくなるため、あらかじめ枋寮10時40分発の普快車に間に合うための列車に乗る必要がありました。具体的に言えば潮州10時1分発の区間車でギリギリ、私はそれが嫌だったために2時間前の潮州8時10分発の区間車に乗るしかありませんでした。ちなみにその区間車は通勤列車ではなく、写真の通り自強号で使われる特急車両が使われているというこれまた珍しいものでした。

台鉄普快車機関車枋寮駅停車中

このような長い旅路を経て枋寮駅に到着すれば、枋寮10時40分発の3671号普快車に乗車することができました。先ほどの台東発の3672号とは異なり昼間の景色を堪能することが可能ですが、以上のように乗り継ぎに大変手間がかかることかかること、ところが・・・

台鉄南廻線大武駅ホームと普快車

実は2019年12月にダイヤ改正が行われ、3671次枋寮発の普快車が11時28発に変更されました。更に9時台に左営・高雄から発車する台東行き371次自強号に乗れば、10時41分に枋寮に到着という乗継ぎ面においても利便性が大きく向上していました。

台鉄普快車客車4両編成

しかしこの利便性向上も、コロナウイルスが流行してしまった2020年の1年間のみでした。普快車自体の運航が終了したことで、この使用されていた「藍皮車」の今後がもはや最大の懸念事項でした。

台鉄普快車台東行前方走行中

しかしここは台鉄、ファンサービスが秀逸です。「藍皮車」は一旦休車に入るものの、延命工事を行って将来的に観光列車として復活する計画であることがわかりました。冷房なくとも自然の風を頼りに旅を楽しめる列車として、今後も走り続けることになります。

台鉄康楽駅ホームと普快車

長い間「普快車」として活躍した「藍皮車」よ、観光列車として再び活躍するその時まで、おやすみなさい・・・

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