広い土地にいくつものホーム、一見すると大きな駅に見えるこの風景。しかし1日数本しか訪れない列車が、その脇の小さなホームから静かに発着する。
東海道本線美濃赤坂支線美濃赤坂駅、美濃赤坂支線は岐阜県のターミナル駅でもある大垣からわずか2区間の東海道本線の支線です。特に終点美濃赤坂駅は1つのホームしか持たないローカル線の無人駅に見えますが、実は貨物列車の物流拠点として大きな役割を果たす駅でもあるのです。
滋賀県手前のターミナル駅、不思議な支線の存在
岐阜県大垣市の代表駅、大垣駅。写真は南口「アピオ」というショッピングセンターと合築駅舎となっています。
大垣駅は東海道本線における重要な拠点ともなる大変大きい駅であり、数多くの線路を持つその規模は岐阜県全体の代表駅でもる岐阜駅を上回ります。東海道本線の他にも本巣や樽見方面へ向かう樽見鉄道、揖斐や養老及び桑名方面へ向かう養老鉄道も乗り入れる一大ターミナル駅でもあります。
大垣駅がターミナル駅になった経緯は、急勾配となる滋賀県米原手前の県境越え直前の拠点となっているためです。ところが東海道本線は米原方面とは別に、大垣駅から上に伸びている荒尾駅、美濃赤坂駅のわずか2区間のルートがあります。一応東海道線とは書かれていますが、どう見ても東海道を貫いているとは言い難いルートです。
その美濃赤坂へ向かう列車は、2番線と4番線の間にある美濃赤坂方面専用の3番線から発車します。なおこの12時39分という列車は日中唯一の運航であり、美濃赤坂支線は朝と夕方での8往復程の運航が基本です。
3つに分かれる線路、美濃赤坂へ向かう正解は・・・
美濃赤坂行きで使われるのは東海道本線では珍しくないJR東海の主力車両313系ですが、車掌なしで運転士が運賃精算を行うことができるワンマン対応の列車となっています。ここからの区間は「TOICA」等のICカードが使えません。
出発方向を見てみますと多くの線路がありますが、そのほとんどが大垣車両区という車両基地の線路であり、東海道本線はそのうちの上下線2本の線路です。美濃赤坂行きの列車もしばらくは東海道本線の下り、米原方面と同じ線路を走行します。
大垣駅を出発してしばらくすると、3つの線路に分かれた場所にたどり着きます。ここは南荒尾信号所と呼ばれる分岐点です。左の線路から米原方面へ向かう垂井線と東海道本線下り、中央が大垣方面の東海道本線上り、そして右の線路が今回向かう美濃赤坂支線です。特に大垣から美濃赤坂へ向かう時は、反対側から来る東海道本線の上りの線路をまたぐ必要があります。
南荒尾信号所から美濃赤坂支線の線路に入ると、1つの列車しか入れない単線区間となります。信号所から入ってからは右方向のカーブが続き、その途中すぐにホームが見えてきます。こちらが荒尾駅です。
荒尾駅は美濃赤坂支線で唯一の途中駅です。ホームには年季が入った昔ながらの待合室があるだけです。30秒ほど停車して、すぐに発車します。
荒尾駅を発車すると直線になりますが、しばらく進むとたくさんの線路が広がる大きな空間が出現します。先ほどまでの単線とはとても思えない風景に度肝を抜かれます。
間もなく広い空間のうちの1つのホームに停車、美濃赤坂駅に到着しました。大垣駅から乗車時間7分、距離にして5kmという短さです。到着した列車は、10分ほどで大垣へ折り返します。
鄙びた駅舎からみる無人駅とは思えぬ規模
到着した列車から降りると、ホームそのまま駅舎へ向かうことができます。エスカレーターやエレベータ、そんなものはいらない構造です。
古き良き日本の味わい深い駅舎という代名詞にも等しい、そんな美濃赤坂駅の駅舎です。右側の出入り口を改札なしで通り抜けることができます。
駅舎の中は、このような感じです。年季が入った木目調あふれる色彩と低い天井版・・・無人駅に伴って右側の窓口が塞がれているという点を除き、ここまで開業当時のオリジナルな姿を残す駅舎も、かなり珍しいのではないでしょうか・・・
美濃赤坂駅にあった美濃赤坂支線の時刻表です。現在本線への直通は廃止され、全ての列車が荒尾、大垣2区間だけの運航となっています。朝と夕方は50分ごとに10往復程度と少ないうえ、日中は13時に1往復だけで前後3時間列車が全くないという不思議なダイヤです。
しかし木枠の窓から薄いガラス越しに景色を見てみると・・・多くの線路とホームが立ち並ぶ風景を見ることができます。50分に1本しか列車が来ない駅にしては、明らかに規模が見合っていません。
こちらが美濃赤坂駅舎の入り口です、入り口右側にある駐輪場に隠れてしまい、駅舎の全貌を見ることはできません。やはりホーム側から眺めることをお勧めします。
大きな駅と1つのホーム、そして謎の線路・・・
美濃赤坂駅の地図です。周辺は住宅地ではなく工場地帯になっています。この地図だけでも旅客輸送ではなく、貨物輸送のための駅であることがうかがえます。
美濃赤坂駅の全景です。先ほどの50分ごとに来る列車は、右側1つのホームしか使われていません。美濃赤坂駅は、左側にある貨物専用のホームと線路がむしろメインの施設になります。
道路をさらに左に進んでみると、1つの線路だけが踏切を越えていることがわかります。JRの美濃赤坂支線の営業は美濃赤坂駅が終点ですが、貨物専用の路線はそれより先に伸びています。
この路線は西濃鉄道市橋線と呼ばれ、美濃赤坂駅を越えて乙女坂周辺にある石灰石工場まで続いています。現在は多くて一日3往復の石灰石を輸送する貨物列車が運行されており、戦前の一時期は旅客輸送も行っていたそうです。
さらに赤坂町の地図を見てみると、セイノーマテリアルから分岐している美濃赤坂線跡という線路もあります。これは2006年に廃止された西濃鉄道昼飯線であり、同じく石灰石の積み出しのための貨物路線でした。ちなみに昼飯は「ひるい」とよみます。
訪問後記
道を間違えて行き止まりにたどり着いてしまったかのような美濃赤坂駅・・・しかし細々営業を続けるローカル線とは全く違った風景が見られる駅でもありました。
美濃赤坂駅はJRの東海道本線から外れた利用客数が少ない支線というのは表向きの姿であり、西濃鉄道の石灰石輸送における貨物ターミナル駅でもありました。大垣市地域一帯は石灰石の一大産地でもあり、美濃赤坂駅は石灰石の鉄道貨物輸送の拠点となっているのです。
美濃赤坂駅の何故か立派だったこちらの駅舎、JRの乗客は右側の無人地帯を通るだけですが、左側の部分は大きな貨物ターミナルを管理する西濃鉄道の事務所となっているのです。
それはJRの列車が来ない日中の時間帯、西濃鉄道市橋線から運ばれてくる石灰石を積んだ貨物列車を多数の線路と広い構内によって整理するのです。そして美濃赤坂駅から東海道本線を使って全国へ・・・石灰石を輸送するための拠点がここにありました。
そして朝と夕方はJRの乗客を運ぶための時間・・・広い構内の中の内の隅にあるホームから静かに列車が発着する風景が繰り返されます。西濃鉄道の貨物列車に着いての風景は、またの機会に紹介しようと思います。