太平洋沿いを通りながら東京と仙台を結んでいた常磐線、しかし2011年の東日本大震災および福島原発事故によって線路は断ち切られました。その断ち切られた人々のために運航している代行バス、今も避難を余儀なくされている原発地帯を健気に走る姿を紹介します。
常磐線竜田駅、2016年常磐線東京からの暫定終着駅です。この駅は避難準備区域内にあり、ここから先は原発事故による避難区域のため除染など復旧へ向けての作業が多く、開通が遅れています。
原発地帯唯一の交通手段、蘇った常磐ルート
2016年当時、常磐線は以下の運航体系となっていました。
- 品川・上野~竜田 :列車運行
- 竜田~原ノ町 :代行バス(1日2便のみ)
- 原ノ町~相馬 :列車運行
- 相馬~亘理 :代行バス
- (浜吉田)~亘理~岩沼・仙台 :列車運行
今回はここ竜田駅、ここに原ノ町行きのバス停から出発する代行バスを紹介します。現在竜田駅にある唯一のバス便のようです。
現在の時刻は10時です。左を見ると、既に代行バスが停車していました。実はこの代行バス、列車の車内放送を含め常磐線では一切案内されませんでした。なぜなら・・・
バス停やバスのドアに貼ってあった案内を見てみると・・・、
原ノ町まで途中停車なし、しかも1日2便しかありません。5分後に始発便であるこのバスが出てしまうと、次は最終便で10時間後となります。常磐線がこのバスの存在を案内しない理由は、この1日2便しかないバス利用が現実的ではないからでしょう。それでも道路通行が解禁になった故に、少なからずとも常磐線をつなぐルートが再びよみがえりました。
いわきで買った常磐線ルートの乗車券を見せ、乗り込みます。この写真は降りるときに取ったものですが、車内はこんな感じです。実際乗客は2人席に1人位乗っていました。なお運転手のほかにも、乗客を案内(監視?)する添乗員さん1人がおり、最前列はその添乗員と放射線線量計の専用席でした。
原発地帯、ひた走る
10時5分、竜田駅を発車しました。ここから原ノ町までノンストップで走ります。そして添乗員さんからの注意事項!
これより国道6号線を通行いたします。この先一部帰宅困難区域を通行いたしますため、窓はお開けにならないようにお願いいたします。
シートベルト着用、安全運航遵守は聞きますが、帰宅困難区域・・・つまりは放射線です。なおここから先は、以下の町を巡ります
- 楢葉町
- 富岡町
- 大熊町
- 双葉町
- 浪江町
- 南相馬市
なおこれらの町の代表駅は、特急ひたちも停車していました。
楢葉町を過ぎて富岡町に入った時でした。まず目に入ったのは、仮設のガードレールとフェンスで閉鎖されたガソリンスタンド・・・国道6号線自体は通行できるものの、故障以外での駐停車は禁止されています。
大熊町と双葉町の境目・・・その場所に大きな送電線の鉄塔が・・・この先をたどるとあの日世界を震撼させた現場、福島第一原子力発電所があります。ここを通行した時、座席前にある線量計が一瞬上昇しました。
浪江町に入ったところです。ここでは放射線廃棄物を入れた黒い袋が積まれていました。近くに放射線廃棄物を袋に入れるためのクレーンが動いていました。なおバスの一時停車ができないため、紹介できる写真が・・・。そこで見どころを編集した動画を後程紹介します。
避難区域の外へ、原ノ町駅
1時間半弱の長旅を経て11時20分、ようやくバスの終点「原ノ町」駅に到着しました。なお町の名前は「はらまち(原町)」と読みますが、駅名は「はらのまち」です。
乗客を降ろした後の代行バスです。バスはその後町の中へと走り去っていきました。なお次の便は、16時55分に竜田駅へ向かう最終便となります。
原ノ町駅に置かれていた代行バスのバス停です。降りたときに気づいたのですが、時刻表の下にこのような記述がありました。
放射線量について
常磐線竜田駅~原ノ町駅間代行バスは帰還困難区域を含む福島第一原発20㎞県内を通行いたしますが、お客様の被ばく線量等については、「帰還困難区域等の国道6号及び県道36号の染料調査結果について(平成26年9月12日付内閣府原子力災害対策本部原子力被災者生活支援チーム)」によると次の通りです。(1)空間線量率
帰還困難区域の道路上の屋外の空間線量率は0.31から14.7μ㏜/h (平均3.5μ㏜/h)(2)被ばく線量
国道6号線避難指示区域の南端(楢葉町)から北端(南相馬市)までの42.5kmを時速40kmで1回通行するにあたって受ける被ばく線量 1.2μ㏜(省略:乗車の注意事項部分)
車内における空間線量率及び被ばく線量について代行バス車内では乗務員が線量計を携帯しております。実際に走行している地点の車内での空間線量率と合わせ、1回通行するにあたっての被ばく線量を測定しております。希望されるお客様は、バス乗務員にお問い合わせください。(原文ママ)
・・・言葉が出ませんでした。ただあえて言えることといえば、改めて常磐線代行バスの運転手、そして添乗員さんに感謝です。
訪問後記
今も続く福島原発事故の復旧作業、鉄道も例外ではありませんでした。それでも道路の通行解禁によって、バスながら常磐線は全線復旧を果たしました。しかしバスは1日2便、特急が走っていたとは思えないほどの惨状でした。私はこのバスに乗るため、いわきで1泊を余儀なくされていました。しかもバスに乗るまで・・・
- 自販機で切符は購入できず、窓口でしつこく念を押される。
- 常磐線で代行バスの案内が全くなし。
- 列車の乗り継ぎの考慮なし。
つまり事前にしっかりと旅程を組まない限り、このバスに乗ることはできないのです。この一見不親切な状況に、私は正直いい心証ではありませんでした。しかし現実を目の当たりにすると、そんな不満も罰当たりな気がしました。原発事故という危険地帯を走る以上、鉄道復旧の日が来る時まで、命を張ってバスを走らせている人々がいました。
訪問時は4月末であり、車窓を見ると菜の花が咲いていました。花の中に飛び込みたい・・・こんなにも美しき自然の風景なのに・・・外に出ることはおろか、窓を開けることも許されません。常磐線は原発地帯を含め、2020年に全区間の復旧が完了する予定です。いま代行バスが走るその風景はその時まででしょう。軽々しく口にできない根深き問題があることを胸に刻んで・・・。
常磐線復興区間について
2016年訪問当時、竜田~原ノ町が復旧中であり、代行バスはノンストップで結んでいました。なお2017年現在は竜田駅~富岡駅の区間便新設、そして一部途中駅に止まるようになりましたが、竜田駅~原ノ町が1日2便の状態は変わっていません。常磐線は2020年に全線復旧する予定ですが、本来のいわき~仙台は、もう内陸を走る高速バスに流れてしまっています。常磐線の本当の試練は、鉄道復旧した後とも言えるのかもしれません。
最後に代行バスの車窓を編集した動画を紹介いたします。少しでも現場の雰囲気を感じてもらえれば幸いです。
常磐線がこれからもあり続けることを祈って・・・。
それではまた不思議な鉄道風景でお会いしましょう。