列車は駅でないところで止まりました。これから方向転換します。ここは九州内陸、阿蘇カルデラへの入口。そんな「火の国」へ向かう方法は・・・立野から一度後退して前進せよ
熊本と大分の間、九州を横断する豊肥本線。その途中には九州山地の中でも急峻な阿蘇の山を越えなければなりませんが、列車は急な坂を上れません。ここでは全国でも珍しい方法で、勾配に打ち勝って山を乗り越えていく光景があります。
なおこの記事は、2012年に訪問した時のものです。2016年に熊本県周辺は熊本地震が発生します。写真は熊本地震によって損壊する前の熊本城です。豊肥本線も地震の影響により、今も一部区間運転を見合わせております。
肥後どこさ、熊本さ
九州の地方都市、熊本。熊本駅に九州新幹線が来てから間もなく1年という風景です。訪問時はまだ2月でしたが、新幹線からの観光客が絶え間なく来ていました。
熊本駅は九州においても重要な拠点駅であり、
- 2011年に全通した九州新幹線
- 九州を南北に縦貫する鹿児島本線
- 九州を横断する豊肥本線
- 三角港へむかう三角線
- 市内を結ぶ熊本市電
があります。他にも熊本駅には来ていませんが、熊本電鉄もあります。
さて、阿蘇山は熊本の内陸部にあり、豊肥本線で向かうことができます。阿蘇山は火山地帯であり、「火の国」と呼ばれる熊本の由来でもあります。九州を代表する観光地とあって、定期・臨時問わず特急列車も数多くありました。写真はその臨時特急の1つ、「あそぼ~い」です。
また豊肥本線は、熊本駅へ向かう通勤路線としての顔もあり、普通列車もひっきりなしに行き交います。
ちなみに普通列車の発着場所が「0番Aのりば」、「0番Bのりば」、「0番Cのりば」という場所です。0番線・0番ホームもあまりなじみがないというのに、さらにアルファベットで・・・。1番線だけでは足りないため、0番という名の3つの乗り場が必要になったという事情でしょう。
実は熊本駅は高架化が行われており、0番乗り場の存在もどうなるか・・・。しかし本題ではないので、ここは割愛いたします。この豊肥本線普通電車に乗って、火の国の由来である阿蘇山を目指します。
肥後大津、立野、道を阻むごとき道
ここは肥後大津駅のホームです。熊本駅を発車した豊肥本線の電車は、全て肥後大津止まりです。豊肥本線は肥後大津まで電車で動けますが、阿蘇方面は電化されていません。阿蘇山へ向かうには、ディーゼルで動く気動車に乗り換えます。
なお現在は地震により、ここから先列車運行は休止しています。
列車に乗り換えて肥後大津を発車すると、瀬田駅、立野駅の順に止まります。しかしここ立野駅で再び列車は止まってしまいました。見てみると運転士がせわしなく動きます。列車が止まっている間、立野駅を紹介いたします。
火の国の分岐点、立野駅
豊肥本線の重要な拠点でもある立野駅、阿蘇カルデラの入り口に位置しています。
道路沿いにあった駅舎は民営化時に取り壊され、「阿蘇望」という土産物店が立っています。現在の立野駅駅舎は、土産物店後ろにある階段の下にあります。
先ほどの土産屋の階段を下りると、現在の立野駅駅舎に入れます。改札を通り、構内踏切でホームに入れます。
まず阿蘇へ向かうはずの進行方向をみると・・・、豊肥本線の線路はこの先ありません。ではどうするか・・・。
ホームに降りてみるととある看板が目につきます。スイッチバック駅です。
標高170mの瀬田駅から標高277mの立野駅まで急勾配を登ります。そこからさらに標高465mの赤水駅まで標高差約190mをスイッチバックで登ります。立野駅に到着した列車は進行方向を変えて途中の転向線まで登り、そこで再度進行方向を変えて赤水駅まで登ります。三段式(Z型)スイッチバックとしては日本最大、阿蘇カルデラの切れ目は壮大な渓谷美を誇ります。
標高は案内板に書かれている通り、列車が進むごとに標高が高くなります。一度後退して山を登らないと、阿蘇の外輪を超えられないからです。
ちなみに後退せずにそのまま突き進む線路があります。これは南阿蘇鉄道という別の路線であり、阿蘇山の南側、南阿蘇・高森へ向かう列車です。
この動画は夜明け前の初列車を撮影しました。スイッチバックを行う駅のためか、メロディー付き車内放送がかなり独特です。運転士が運転室を交代するため、時間がかかるという旨の放送があります。
この写真は夜明け前撮影した立野駅ホームの様子です。冬の夜明け前故、まだ暗い中での列車交換の様子です。左側は豊後竹田へ向かうこの日最初の電車です。
スイッチバック、目的地は前進のみ!
ここはスイッチバックの「転向線」です。左方向の登ると、赤水・阿蘇・大分へ、右方向の下ると、立野駅に向かった後、再び後ろ方向へ肥後大津・熊本へ向かいます。どのように向かうかは動画にて。
これはスイッチバック区間を下る様子です。4分間かけて転向線から立野駅まで下っていきます。
火の国への入り口、赤水駅
赤水駅は夜明けに訪問いたしました。動画は赤水駅に到着する際の車内放送です。
これから紹介する赤水駅は2012年訪問当時のものです。この4年後、熊本地震で壊れてしまいました・・・。
スイッチバックを超えて初めての駅、赤水駅です。夜明けの風景に似合う、木造づくりの古い駅舎でした。
赤水駅の駅名表と駅舎です。夜明け前でも駅舎の明かりはともっていました。
赤水駅のホームです。赤水駅は阿蘇の山々に囲まれているため日の出が遅いです。そのため霜がなかなか溶けず、かなり寒い思いをしました。
赤水駅のホームにあった周辺地図です。阿蘇の地形がわかりやすく書かれています。これを見ると先ほど阿蘇・南阿蘇高森の位置関係もわかり、またスイッチバックする必要性も理解できます。
赤水駅に熊本へ向かう列車がやってきました。この日は平日で学生がちらほらとホームに来始めていました。阿蘇のカルデラに汽笛が鳴り響きます・・・。
火の国ターミナル、阿蘇駅
さて、赤水駅を越えて数駅・・・阿蘇駅にたどり着きました。阿蘇山へ向かう観光客がたくさん下車します。
ここは特急「あそぼーい!」マスコットキャラクターの駅長室です。くろ駅長こと「あそくろえもん」です。当時は半年前の2011年7月に設置されたばかりでした。
こちらは阿蘇駅の駅舎です。阿蘇山ロープウェイ方面など、阿蘇市の列車・バスの交通ターミナルです。それについても後々説明を行っていきたいと思っております。
なお現在は地震により、熊本へ向かう列車はありません。
訪問後記
スイッチバックといえば、箱根登山鉄道が有名ですが、方向転換する場所は列車交換もできる駅や信号所です。しかしここ豊肥本線では、駅でも信号所でもない「転向線」で方向転換します。このような方式は日本で4駅しかなく、特に立野駅のスイッチバックを通過する列車数は一番多いです。私も恥ずかしながらこの立野駅に到着したとき、車内放送ではじめてスイッチバック駅であることを知りました。運転士が反対側の運転台にせわしなく移動していたことが印象的でした。このような構造から長い編成の運航は難ありでしたが、今は列車も1・2両が当たり前の時代、阿蘇山観光や新幹線開業も後押しして、日本でも有数な観光路線になりました。しかし・・・
豊肥本線は熊本地震のため、一部区間運休となっています。そしてスイッチバック区間を含む立野駅も運休中、赤水駅は地震によって駅舎は壊れてしまいました。豊肥本線の特急「九州横断特急」も一部区間のみ運行で、現在横断できていません。
しかし熊本県は復旧を進めています。復旧した暁には、豊肥本線も再び九州横断という役割を再び担うことでしょう・・・。
それではまた不思議な鉄道風景でお会いしましょう。