常磐の国と福島浜通りを縦断する常磐線、東北本線と並ぶ北へ向かうルートでした。しかし2011年3月11日の大地震と津波、そして翌日の原発事故・・・いわきからあおばへ向かうルートは閉ざされ、避難区域手前で列車は止まりました。
JR常磐線は上野から水戸・日立・いわきを経由して太平洋を通りながら仙台へ向かう路線です。さらに上野東京ラインができてから、常磐線の列車は上野駅から東京駅・品川駅にも顔を出すようになりました。写真は震災後に車両がリニューアルされた常磐線の特急「ひたち」「ときわ」です。特急「ひたち」は仙台駅へ向かう列車もありましたが、東日本大震災によって常磐線は被災、現在は遠くてもいわき駅止まりとなっています。
この記事は竜田駅が終着駅だったころの2016年に訪問しました。訪問後2017年10月、常磐線の暫定終着駅は復興が進み、竜田駅から富岡駅へ延伸となりました。
特急の終点からその先は・・・
さてその特急ひたちの終点であるいわき駅です。かつては平駅(たいらえき)と呼ばれていました。言わずと知れた温浴施設「ハワイアンズ」をはじめとした湯本温泉も、ここいわき市内にあります。
写真は朝9時前のいわき駅の風景です。理由は後ほど話しますが、2016年当時ここから仙台へ向かうためには、この時間から行動する必要がありました。
いわき駅の時刻表です。いわき駅は常磐線のほか、郡山へ向かう磐越東線も乗り入れています。しかし8時の後は13時、終電は19時と便利とは言えません。駅前から出る高速バスに完敗です。そして常磐線で仙台へ向かう場合も、9時22分の竜田行きに乗る必要があります。
しかし自動券売機で切符を取り扱っていないとの表示が・・・。
有人窓口に並んで購入することになりましたが、「このルート(常磐線)で?」とかなり念を押されました。
いわき駅、常磐線の分断点・・・
現在いわき駅は「常磐線上野方面」・「常磐線仙台方面」・「磐越東線郡山方面」の列車が発車します。見かけ上は1つの路線である常磐線も、ほとんどの列車がここいわき駅始発・終着となります。そして案内を見て見ると「竜田方面」・「竜田行き」とのみ書かれていました。
つまり「いわき」〜「竜田」の間を列車が往復運転しています。いわゆる盲腸線状態です。
1番線に仙台(竜田)方面から水戸行きの普通列車が来ました。
現在いわき駅を乗り越えて運行される数少ない列車です。かつては特急を含めいわき駅を直通する列車はなりに多かったのですが・・・
水戸行きの列車が発車します。シューベルト「ます」の音楽が鳴り響きます。なおこの半年後、メロディーはジェイク・シマブクロさんの曲に変更されています。
上野からやってきた特急ひたちも、ここが終点です。かつては上野から仙台へ行ってしまう列車もありました。実は震災の1か月前に、特急列車はいわき駅で系統を分けることが決まっていました。しかし理あらず原発事故によって、特急はおろか列車自体通らなくなってしまいます。
9時22分発着の竜田行の列車に乗ります。先ほどの特急からの乗客も、この列車に乗ってきます。この列車はE531系と呼ばれ、上野駅では2005年から運用を始めていますが、ここいわき駅を発着する列車では2014年から運用についています。あまり言いにくいですが、「東京」と「ここ」では10年のタイムラグがあるということでしょうか。
いわき駅発車!、被災現場の限界まで・・・
発車する3番線から流れる音楽は、シューベルトの「楽興の時」・・・クラシック好きですな。ちなみに5番線はメンデルスゾーンです。いわき駅を発車しました。ここから先は現在の終点「竜田」駅へ向かって走ります。
途中駅の広野駅です。かつてはここが暫定的に終点だった時もあります。ちなみに列車先頭に見える2本の煙突は、広野火力発電所です。震災時も被害を受けましたが、現在は原発の分も含めてフル稼働です。
広野駅には震災後にできたであろう真新しい建物や道路ができていました。ここから先は避難指示解除準備区域に入ります。
間もなく終点竜田駅に到着です。車内放送には「常磐線、富岡方面はお乗り換えです」しかし2016年当時、ここから先へ向かう列車はありませんでした。
被災現場の最前線、静かなるターミナル駅・・・
現在の終点、竜田駅に到着しました。駅名標の案内には次の駅「富岡」が書かれています。しかし列車は先へは行かず、折り返していわき駅に戻ります。
まず目に飛び込んできたのが、駅出口を結ぶ存在感大きいこの通路。使っていない1・2番線の線路を横切っています。ちなみに跨線橋は、入れないようになっていました。
竜田駅のホームと列車です。一見するとのどかな雰囲気で、待ち合わせ中の普通列車のような風景に見えます。しかし後ろを向くと・・・
線路は完全に自然に戻ってしまっていました。ちなみに1・2番線の信号は、利用停止を示すバツ印がつけられており、3番線の信号は、赤色でしたが動いておりました。この信号機が再び青くともる日は来るのでしょうか。
列車が再びいわきへと向かって発車していきます。静かな駅に聞き覚えのあるメロディーが・・・、この列車は車両からもメロディーも流せるようです。便利だ。
光と風のまち・・・
竜田駅の駅舎です。日本の典型的な田舎駅という感じです。原発事故で終点となっている駅には見えません。しかし・・・
竜田駅の駅前風景です。カラーコーンや白い業務用車、そして過疎化にしては不自然な人の少なさ・・・。やはり鉄道路線の終着駅としては、妙な違和感を拭い切れません。
左側に遭った楢葉町の観光案内看板を拡大してみると・・・。
未来へのキックオフ!
光と風のまち・ならは
自然と楽しむ町、そんな風景が浮かんで来るような・・・。しかし、その脇には放射線を計測する線量計が設置されていました。かつてあった自然あふれる町の姿、そして今の現実、そんな2つを見ることになりました。
訪問後記
2011年の東日本大震災そして福島原発事故から5年、常磐線の全線開通へ向けての復旧は、いまだ続いていました。その現場は東京から特急列車1本+普通列車1本で行くことができました。
いわきから仙台を結んでいた列車は、あの事故が発生して以来、2016年現在も原発事故の現場を超えられずにいます。そしてここ竜田駅が東京からの終着駅になってしまうとは、誰も想像がつかなかったことでしょう。
原発地帯を含めた常磐線の全線復旧は2020年を目標としています。
またこの暫定的な終着駅も常磐線の復旧によって消えてしまいます。さりとて私はいままで常磐線の中間駅として見向きもしませんでした。しかし原発事故によって、私はここに降り立つ機会を得ました。いままで気にも留めなかった「光と風のまち・ならは」・・・いつか再び自然と共存できる日を願って。
そして2017年10月、常磐線の暫定終着駅は復興が進み、ここ竜田駅から富岡駅へ延伸となりました。
次回はここ竜田駅を発着していた、原発地帯を超えるための常磐線「代行バス」を紹介いたします。
それでは不思議な鉄道風景でお会いしましょう。