人間って面白いですね・・・、こうやって寝ているだけで妖怪世界に連れていかれる入り口を作ってしまうなんて・・・、ね!父さん。
鳥取県を走る境線は、山陰本線のターミナル駅である米子と境港18kmを結ぶ地方交通線です。その境線の始発である米子駅0番ホームは、境港市出身である水木しげる代表作「ゲゲゲの鬼太郎」のキャラクターがちりばめられた空間となっています。ちなみに妖怪の世界で「米子駅0番ホーム」は、「ねずみ男駅霊番ホーム」と呼ばれて・・・いるそうです。
旅のドラマの出発点
山陰地方の主要駅、米子駅。山陰本線のほか、境線、伯備線も乗り入れるターミナル駅です。国鉄時代からの駅ビルには、JR西日本の山陰地方ほとんどの路線を管轄する米子支社が入っています。
米子市の中心にある米子駅は鳥取県に位置していますが、わずか2km西に進んだだけで島根県の県境にぶつかります。山陰本線は東西方向へ、境線は美保湾と中海に挟まれた砂洲、弓ヶ浜半島を北上します。
このように地理的に大きなメリットをもつ米子は、山陰地方で初めて鉄道が開通した町として大きく発展してきました。そのため駅前には鉄道にまつわるモニュメントが多数見られます。
しかし米子駅は駅舎を兼ねた支社ビル側にしか改札口がないため、駅周辺の混雑が問題になっています。そのため駅舎を一部取り壊し、その敷地に橋上駅舎を2022年に完成させるそうです。
駅舎の中はこのような感じです。ところどころ古さが目立ちますが、最近ICOCAの導入によって真新しい自動改札機が入りました。しかしこれら改札業務も新しい橋上駅舎に移転する予定となっています。
駅の発車案内標を見てみると、岡山と鳥取そして島根へ向かう列車が案内されています。特急列車も岡山と出雲を結ぶ「やくも」が1時間に1本、山陰地方を縦断する「おき」「まつかぜ」が2・3時間に1本と大変忙しい駅です。
海、山、旅のドラマは米子駅から
おそらく国鉄時代からのものでしょう。旅の旅情を掻き立てるこんな懐かしのスローガンも残ってくれるのでしょうか・・・。
米子駅の0番ホーム、それはねずみ男駅の霊番乗り場
ところでそんな米子駅には、0番ホームがあります。0番ホームは米子空港や境港へと向かう境線の乗り場です。
先ほどの写真で「0」の看板に違和感ある方は、おそらく0番ホームの存在そのものもご存じない方でしょう。0番ホームができる理由は様々ですが、1番ホームと2番ホームができた後に反対側に発着ホームを作ったためという理由が最も多いです。特に高架前の熊本駅は、写真のように0A・0B・0Cと0番ホームが3つもある時期がありました。
階段を使わず駅舎に沿って進むと、既に列車が止まっています。0番ホームは間もなくです。しかしその案内や列車のイラストを見ると、青白い顔をした子供と手足が生えた目玉、階段にはネズミの形相をした中年男・・・。明らかに禍禍しいとは言わんばかりの生物が描かれています。
歓迎!妖怪の国へようこそ
停車している列車のイラストには、「鬼太郎列車」と書かれています。今は亡き水木しげる氏の代表作、「ゲゲゲの鬼太郎」の主人公、墓場鬼太郎が描かれています。
0番ホームは御覧の通り賑やかな構成となっております。誰が主役かわからない位、妖怪たちが乱立してお出迎えしてくれます。お疲れ様です・・・。
その中には、主人公鬼太郎の銅像もありました。今にも語り掛けそうな顔で、「妖怪の国へようこそ」という旗を持たされおります。人手不足が問題になっているとはいえ、妖怪にまで労働させるとは・・・。
山陰本線は高速化、境線は妖怪化
境線米子駅の駅名標です。米子駅を妖怪の世界では、ねずみ男駅という・・・そうです。鬼太郎と対極的な立場であり、守銭奴で外れた行動をしては戒められる役を担っています。ちなみに本名は「ペケペケ」というそうです。
そんな境線は、各駅に妖怪の名前が付けられています。もちろん終点の境港は鬼太郎駅です。ちなみにこの案内は0番ホームに掲げられているものですが、気になるのが右上の説明文・・・。
JR境線妖怪ワールド
ねずみ男駅(米子)の0番ホームから鬼太郎駅(境港)の妖怪の街まで全国の妖怪がお待ちしております。
名前を付けるどころか現物までお待ちしてくれているようです・・・。何をしてくれるのかはお楽しみということでしょう。
一方の山陰本線では2000年代に高速化を果たして新しい列車が入りましたが、境線は国鉄時代の列車がそのまま妖怪化しました。やはりこの0番ホームという領域に空間をゆがませる何かがあるのでしょうか・・・。
訪問後記
境線は国鉄再建法による廃線をかろうじて免れた路線でしたが、貨物輸送の廃止によって衰退の一途をたどりつつありました。地元新聞から廃線論も掲載されて、騒動を起こしたことは記憶に新しいです。
そしてJR西日本になって間もない1993年、境港市の水木しげるロードと同時に鬼太郎列車が誕生しました。漫画のキャラクターを列車のラッピングにすること自体、当時は珍しい存在でした。米子駅の階段に、3代目の鬼太郎列車のラッピングが書かれていました。特徴的なのは、列車のテールランプが目玉おやじの目玉にあてられているというシュールなものです。
そして四半世紀後の2018年、鬼太郎列車は既に5代目を迎えており、近年ではほかのキャラクターのラッピング列車が計6台も誕生しています。恐るべき妖怪パワー・・・。
実はこの写真を見ると、その遍歴が一目でわかります。境線の集客のために旗を持って営業している0番ホーム銅像の鬼太郎さんと、寝ていても客が来ると余裕をかましていると思わしき2018年リニューアル列車の鬼太郎さんです。それは境線の妖怪化事業が、ある意味成功したことを如実に示しているものでしょう・・・。
そして境線や境港市は鬼太郎のおかげで、観光地化に大成功しました。そして2015年、原作者水木しげる氏は妖怪の世界へと旅立たれました。
昨今駅を含めた再開発によって、案内が煩わしいともいえる0番ホームは改番によって消える方向にあります。米子駅も2022年に向けて駅舎が橋上化されることになっています。しかし妖怪世界の入口という特異な役割を担う米子駅0番ホームは、橋上化後はおろかむしろ永久に残る可能性が全国で一番高いかもしれません。