【名鉄西枇杷島駅・枇杷島分岐点】列車発着以外は閉鎖される屋根がない狭いホーム

この記事は約6分で読めます。

発着する列車がいない時、この駅は一切人の立ち入りは許されない。この屋根なきホームに誰一人いない不思議なこの空間には、路線全体の安全を守るという大きな真理が存在する・・・

名鉄名古屋本線西枇杷島駅、ターミナル駅名古屋駅からわずか3駅隣にありながら、30分に1本だけ来る普通列車だけしか停車しない静かな駅です。しかしとある事情で屋根がない細いホームという構造となっており、列車発着時以外のホームへの立ち入りが一切許されない仕組みとなっています。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

名鉄を支えるターミナルから10分程の分岐点

愛知県名古屋市にある、名古屋駅新幹線も全列車停車し、名鉄・近鉄等の私鉄も拠点とする中部地方の代表駅でもあります。地元では「名駅」とも呼ばれています。

中でも名鉄こと名古屋鉄道は日本の大手私鉄で3番目に長い路線を有しており、名鉄名古屋駅を中核とした運行を行っています。但し名鉄名古屋駅を発着する列車は少なく、各都市を発車した列車を名鉄名古屋駅に集結させて目的地へ向かわせる運行体制となっています。

今回紹介するのは、名古屋駅から名古屋本線の各駅停車で3駅目のところにある西枇杷島という駅です。栄生、東枇杷島と続いて犬山線の列車と別れた次の駅となります。

名鉄名古屋駅に停車する、普通佐屋行きの列車です。名鉄名古屋駅は多方面に数多くの列車が発着しますが、その内名古屋本線の普通列車は日中は30分ごとに来る佐屋もしくは弥富行きの列車しかありません。数少ないこの列車に乗って3駅先の西枇杷島駅に向かいます。

西枇杷島駅に到着する直前、このような分岐点を通ります。ここは枇杷島分岐点と呼ばれ、左方向は岐阜へ向かう名古屋本線、右方向は犬山へ向かう犬山線となります。名古屋本線にある西枇杷島駅は、この枇杷島分岐点を左方向へ向かったすぐのところにあります。そしてこの枇杷島分岐点は、後に西枇杷島駅の構造を語るうえで重要な存在となります。

柵、屋根もない細いホーム、そして踏切警手・・・

名鉄名古屋駅から名鉄名古屋線3駅目の駅、西枇杷島駅に着きました。そのホームに降りると・・・細いホームで足場ないうえに名鉄特有の赤い列車でかなり圧迫感ある空間です。特にホーム先端になるとほとんどナイフリッジ並みの細さでありながら、立ち入り禁止などを示す柵などの構造物が全くありません

西枇杷島駅のホームと駅名標です。ここはホームの中腹ですが、ホームの幅4mというこの狭さ・・・ホームに立っている構造物は、駅名標とその隣にある非常通報ボタンの柱だけです。そして気になるのはここまで歩いても誰一人ホームに人がいないことです。

そして細いホームを延々と歩くと、名古屋側のホームの端で駅舎につながる構内踏切にたどり着きます。ところが「早く出なさい!」と駅員らしき人に注意されてしまいました。ちなみに【駅員らしき人】というように、彼は駅員ではありません。その点は後で詳細に説明します。

そして私が外に出るや否や構内踏切の遮断桿が即座に下ろされて、ホームは封鎖されました。どうやら発着列車以外はホームにいてはならないという暗黙のルールがありました。

駅から出てようやく見える全貌、そして重要拠点

名鉄名古屋本線の西枇杷島駅は、庄内川を渡って犬山線と別れたすぐ先にあります。ちなみに西枇杷島駅の先は、東海道新幹線と東海道本線が並行して横切っています。

駅のすぐ隣にある踏切から撮影した、西枇杷島駅のホームです。4両編成分しかない長細いホーム2つ、構内踏切付き、屋根なし・乗客なし・駅員なしという空間になっています。驚きなのはこの駅が大都市名古屋から普通列車で10分の距離にあるという点です。

そして西枇杷島駅の反対を振り向けば、先ほど列車から見た名古屋本線と犬山線が分岐する枇杷島分岐点と呼ばれる重要拠点があります。手前側西枇杷島駅に向かってくる列車が名古屋本線、向こう側を走っているのが犬山線です。西枇杷島駅は、枇杷島分岐点での平面上で多くの列車を整理しなければならない重要な仕事を持っています

こちらが西枇杷島駅の駅舎です。名古屋駅から3駅という距離ですが、かなり年季が入った駅舎がありました。瓦屋根に庇が入った純朴な駅舎も、特に私鉄でなおかつ大都市圏ではかなり珍しい存在です。

駅舎の中はこのような感じです。緑青色のベンチや壁も昔ながらの空間であり、IC対応の新しい改札機が妙に浮いている状態です。この駅は駅員がいない無人駅の扱いとなっており、先ほど紹介した枇杷島分岐点の管理拠点という役割の面が強いです。

通過列車行き交う中、垣間見る職人芸

西枇杷島駅の時刻表です。清須市という名古屋市のすぐ隣にある西枇杷島駅ですが、30分に1本しかない普通列車しか停車しません。

通過列車の方が多い西枇杷島駅故、普段はホームに立ち入らないように遮断桿が下ろされた状態になっています。安全確保のため、ホーム無断で立ち入ることは絶対に許されません。

その時の様子を動画がこちらになります。お世辞にも聞き心地が良いとは言えない様々な警報音が静かな駅舎の中に鳴り響きます。このような通過列車が行き交う中、普通列車が発着する時を狙って踏切を開放しなければなりません。

いくつかの通過列車を見送った後、遮断桿を上げるや否や「名古屋方面」と着飾らぬ一言での口頭アナウンス、すると乗客は無言で足早にホームへ向かいます。ちなみに西枇杷島駅は無人駅のため、こちらの方は駅員ではなく踏切警手です。

そして名古屋方面の列車到着前ですが、もう遮断桿は下ろされて通行できなくなりました。駆け込み乗車はもちろん、ぎりぎりの乗車はできませんでした。

訪問後記、そして伝説へ・・・

田舎の駅では珍しくない古い駅舎と構内踏切を持った狭いホーム、表向きはそんな姿をしている西枇杷島駅ですが、名鉄の運航を大きく支える存在でした。

西枇杷島駅はすぐ隣にある枇杷島分岐点を管理する役目を負っており、数多くの列車が運行されている名古屋本線および犬山線がぶつからないようしなければなりません。その枇杷島分岐点直前に位置している西枇杷島駅は、名鉄の安全運航を管理する砦でもあるのです。

西枇杷島駅がこのような構造であることも説明できます。枇杷島分岐点直前である西枇杷島駅は、犬山線の列車にぶつからないように列車を待機させるための空間が必要でした。狭い土地でありながら列車を止め置く空間が必要となった結果、ホームの幅が限りなく細く設備がそぎ落とされた構造になったためでした。

また同時に普通列車しか停車しない旅客駅という顔を持っている西枇杷島駅、特急はもちろん準急でさえもご覧のように通過してしまいます。通過列車のほうが多い西枇杷島駅において、ホームの細い空間に乗客を入れることは危険を伴います

そんな普通列車発着の時に乗客を素早くホームに入れる為、通過列車の間を縫って踏切を操作しなければならないこの技は、ある意味職人の域に等しいものでした。淡々に「名古屋方面」と一言だけのアナウンス、それに従いホームへ向かう乗客、暗黙の信頼が感じ取れる日常的な風景が、そこにありました。

しかし2019年のダイヤ改正による効率化によって、西枇杷島駅の待避線は使用停止となり、外側の線路は撤去されることになりました。西枇杷島駅のこのホームの姿は過去のものとなり、現在ホームは外側に拡張されて柵が設けられています

そして2020年の駅改良工事をもって、西枇杷島駅は大きく姿を変えました。構内踏切は廃止され、改良された双方のホームにそれぞれ駅舎が作られることになりました。そのため通過列車が横切ることを待つことなく、他の駅と同じようにホームにいつでも入ることができる構造に変わります。

駅改良工事によってより安全にはなったものの、不思議な光景を持った駅がまた1つ消えることになりました。しかし昔と違う光景になろうとも、普段と変わらぬ姿で今日も淡々と運航することを・・・

最後に動画をそして一言、「名古屋方面」・・・