【南阿蘇鉄道高森駅・高森湧水トンネル】水に阻まれた横断鉄道

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ここは阿蘇のカルデラの中にあるローカル線の線路です。線路はこのままカーブして終点に向かいます。しかし目の前にはトンネルがある公園が・・・本当の行先はどこへ・・・。


ここは九州内陸の阿蘇山南側を走るローカル線、「南阿蘇鉄道」。全長17km程しかなく、南阿蘇村内の地域輸送に徹しています。しかしそんな鄙びたローカル線が生まれた背景には、隠された経緯が存在していました。なおこの記事は、2012年に訪問した時のものです。2016年の熊本地震によって、南阿蘇鉄道は今も一部区間運転を見合わせております。

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肥後どこさ、熊本さ


九州の地方都市、熊本。熊本駅に九州新幹線が来てから間もなく1年という風景です。訪問時はまだ2月でしたが、新幹線からの観光客が絶え間なく来ていました。


熊本から豊肥本線で立野駅に到着しました。熊本駅を発車した豊肥本線の電車は、全て肥後大津止まりです。豊肥本線は肥後大津まで電車で動けますが、阿蘇方面は電化されていません。阿蘇山へ向かうには、ディーゼルで動く列車に乗り換えます。なお現在は地震により、ここから先列車運行は休止しています。

常に前へ、後退はあり得ない!!!


これは立野駅の駅舎です。小ぶりでシンプルな駅舎ですが、特急全停車はもちろん2つの鉄道路線が接続する重要な拠点駅です。


豊肥本線はスイッチバックしてしまうため、ここから線路は続きません。しかし南阿蘇鉄道は、南阿蘇へ向かって突き進みます。スイッチバックする豊肥本線については、以下のページをどうぞ。

【豊肥本線立野駅・赤水駅・阿蘇駅】スイッチバックをこえて火の国へ
列車は駅でないところで止まりました。これから方向転換します。ここは九州内陸、阿蘇カルデラへの入口。そんな「火の国」へ向かう方法は・・・立野から一度後退して前進せよ 熊本と大分の間、九州を横断する豊肥本線。その途中には九州山地の中でも急...


南阿蘇鉄道のホームへ行くと、すでに2両編成の列車がいました。訪問時は朝の平日で、豊肥本線に乗り換える学生のために増結していたようです。しかし折り返しでお客さんがいないため、少し手持無沙汰な感じです。この列車で終点、高森駅を目指します。

南阿蘇の里、高森の駅、その正体・・・


さて、高森の駅に着きました。目の前に阿蘇山が見えます。朝の風景でありまた鮮やかです。


高森駅は高森町の中心部に作られています。一見すると鄙びたローカル線の終点。ところが・・・


高森駅の駅舎の脇にはSLが静態保存さています。そして立て看板には「高森湧水トンネル公園」という案内が。大抵SLが静態保存されている町というのは、その町における鉄道に関する隠された歴史背景が存在します。間違いなく何かを伝えています。何かを・・・そのトンネルに向かいます。


高森湧水トンネル公園へは高森駅から1kmと離れています。高森町の中心からは離れていきますが、南阿蘇のさわやかな風が・・・。

公園に噴き出る水、それは・・・


さて高森駅から1kmおよそ15分歩き、その高森湧水トンネル公園につきます。公園の入り口近くには、南阿蘇鉄道の線路があります。ちなみに線路は写真進行方向に進むと、先ほどの高森駅となります。


ここ「高森湧水トンネル公園」の構造はかなり独特です。南阿蘇鉄道の線路からなぜか下り勾配となっています。また公園の大部分が噴水設備を持つ水場というものです。
そして立派なトンネルが・・・・・・間違いなく訳ありです。


google mapで説明を・・・南阿蘇鉄道は公園手前で方向を変え、高森駅に入っています。もし方向を変えずに直線で行くと、そのまま公園に入る構造です。くどい様ですが、つまりこれは・・・


その公園の突き当たりにあるトンネル。この鉄道のトンネルに似ている・・・もう答えを言いましょう。鉄道が通るはずだったトンネルの中に入ります。

本当の終点・・・かなわぬ夢と現実


トンネルの構造は、道の中心に水が入口に向かって流れています。
また暗闇を生かした様々なイルミネーションが彩られます。写真のようにSLをかたどったイルミネーションも・・・本当は本物が通るはずでした。


高森湧水トンネルの長さは500m程です。トンネルはなだらかにカーブをしており、入ってからほどなく入口は見えなくなります。写真を見ると煌びやかなイルミネーションや照明器具が飾られて暖かそうですが、実際はトンネル独特のひんやりとした・・・冷えた空気が漂っております。


トンネルの終点間際には、「マイクロ水力発電実証試験設備」たるものがあります。わずかな水流を水車によって発電しようという仕組み・・・らしいです。その奥は流れる水に点滅する光を当てることによって、あたかも水がさかのぼって見える・・・そんなモニュメントも。


ようやくトンネルの終端につきました。ここが本当の高森線の終点・・・岩の間からとめどなく水が噴き出しています。このトンネルに鉄道を通ることが叶わなかった理由です。実は南阿蘇鉄道の前身である国鉄高森線は、山の向こうにある国鉄高千穂線の高千穂駅と結ばれる計画でした。そして熊本と延岡を結ぶ横断鉄道を夢見て・・・。


しかし工事途中で大量出水に見舞われるなどして工事は進みませんでした。間もなく国鉄再建法によって工事は中止となり、横断鉄道は幻に・・・。これは問題の出水現場のように見えますが、これは作りものです。実際はこのモニュメントを超えた2km程先で工事が中断となりました。


改めて公園を高い位置から見てみます。横断鉄道が開業した時、ここが新しい高森駅になる予定でした。しかし横断鉄道が幻になり、高森駅は町の中心部に残されたのでした。後に残るのは、風景に似合わぬ無機質なコンクリートの構造物・・・。

今は亡き、南阿蘇と阿蘇を結ぶバス・・・


さて、私がいた当時は阿蘇山を超えて阿蘇駅へ向かうバスがありました。九州産交バスの「阿蘇南登山線」という路線名でした。阿蘇駅行きが2往復、阿蘇山口止まりの2往復がありました。


この運転手さんがかなり粋な方でして・・・路線バスにもかかわらず途中の眺めの良いスポットで途中停車して撮影ができました。


なおこの路線は私が乗る1年前に平日にも運航されるようになりますが、この1か月後に路線そのものが廃止されてしまうのです。まさか私のためのバス路線・・・そんな気がするのでした(勝手な思い込み)。

訪問後記

南阿蘇村の人々の足として運んできた南阿蘇鉄道。いまは地元の人たちや観光客のための、ローカル線でした。しかし高森駅にあったSLが、その隠された願いがありました。それは豊肥本線のようなスイッチバックのルートを通らない九州横断鉄道のルートをつくること・・・南阿蘇鉄道こと国鉄高森線はその一部として阿蘇のの山を越えて宮崎の高千穂・延岡を目指します。


しかし大量出水によって工事は進まず、国鉄再建法によって横断鉄道計画は消えてしまいました。その後は高千穂線は高千穂鉄道に、高森線は南阿蘇鉄道に、それぞれ地元ローカル路線として運航を続けてきました。


ちなみにこちらは高千穂鉄道高千穂駅の終端です。ここからトンネルを通って南阿蘇・高森へ向かうはずでした。

【高千穂鉄道高千穂駅】神下りる地・結ばれぬ夢・止めし時の駅
ここは天岩戸など神が下りる場所と呼ばれる地「高千穂」・・・その聖域を結ぶ鉄道がありました。台風によってその時を止めた今、結ばれぬ夢の姿もそこに・・・。 高千穂には2005年まで高千穂鉄道が走っていました。この鉄道は九州を横断するという...

ところが2008年には台風水害によって、その出会いの相手である高千穂鉄道が廃止に・・・さらに2016年には熊本地震によって、南阿蘇鉄道自体も危機に立たされてしまいました。火の国と神降りる地を結ぶ列車の道、それは決して許されぬ夢なのでしょうか・・・。


そして2016年の熊本地震によって、南阿蘇鉄道は一部区間で復旧のめどが立っていません。中松と高森の間が部分開業しましたが、それでも1日3・4往復という状況です。現在南阿蘇鉄道では応援ページが開設されています。

南阿蘇鉄道応援サイト

横断鉄道はかなうことはありませんでしたが、再び南阿蘇の町に鉄道が通ることを祈りて・・・

それではまた不思議な鉄道風景でお会いしましょう。